• Klein, R. M., Christie, J., & Morris, E. P. (2005). Vector averaging of inhibition of return. Psychonomic Bulletin & Review, 12, 295-300.

・IORの原因と空間分布について調べるのが目的.
・同時に複数のcueが呈示された場合のIOR分布について,Wright and Richard (1996) は固視点周囲8ヶ所のうち1-4ヶ所に同時にcueを呈示して調べた(注意がcued locationに留まらないように,(1) 1/3の試行でfixation上にターゲット出現,(2) fixationへのreturn cueを呈示)ところ,cueの数に関わらず同程度のIORが生じ,「IORは同時に4ヶ所までは同じ大きさで生じる」と結論づけた.
・IORの原因については,local stimulationによる (Posner & Cohen, 1984) という考えと,overt orientingメカニズムの活動の結果である (Maylor, 1985) という考えがある.
→Wright and Richard (1996) の結果は,local stimulation説を支持し,1度には1ヶ所にしか眼球運動できないためにIORが眼球運動プログラミングによって生成されるという考え (Klein, 2000; Rafal et al., 1989; Taylor & Klein, 1998) に反するものである.
※Wright and Richard (1996) の結果を解釈する上での注意点.
 (1) cueの数に関係なくcued locationとuncued locationへのターゲット出現確率が半々だったので,cueの数に応じてcue informativenessが異なった.cueがターゲット位置に関する情報を提供する場合,注意は当該位置に留まってIORを覆い隠す.実際に,Wright and Richard (2000) では,cueがターゲット位置を予測しない時にのみIORが生じた.つまり,Wright and Richard (1996) では,cued RTが注意促進によるcontaminationを受けている.
 (2) Wright and Richard (1996) では,IORの操作的定義が粗く,cue-target distanceを込み込みにしてIORの空間分布を考慮していない.
 (3) 眼球運動が1度に1ヶ所にしかプログラミングできないという仮説に関連づけてデータ分析を行っていない(眼球運動のモニタリングをしていないということ?).
→3点を改良した上で,Wright and Richard (1996) を追試する.
 (1) cueの数に関わらず,ターゲット位置を予測しないようにする.つまり,ターゲットは8ヶ所に等確率で出現する.
 (2) cueのnet directionとターゲット方位の関係も考慮してデータ分析する.
 (3) 眼球運動をモニタリング.
Experiment
固視点周囲の8ヶ所のうち1-4ヶ所にcueを200 ms→central cueを200 ms→SOA = 400 or 1500 msでターゲット出現(8ヶ所のいずれかあるいはfixation上).1/3の試行ではfixation上に,2/3の試行ではperipheral locationにターゲットが出現.1500 ms条件は25%で出現し,anticipationを防ぐキャッチ試行.peripheralの場合,cueの数に関係なく,ターゲットは8ヶ所に等確率で出現.
・single cue試行では,cue-targetの角度差が大きくなるにつれてRT減少.
multiple cues試行では,cueのnet vectorとtargetの角度差が大きくなるにつれてRT減少(この場合,全てのcueの重心とfixationの距離が1.5°を超える試行のみを分析対象とする).また,single cue試行とRTに有意差はない.
・multiple cues試行で,cue RTとuncued RTには有意差がない(ただし,cued/uncued×cue-target vector differenceの交互作用は有意なのかどうか不明).つまり,cueアレイがfixationから離れるnet vectorを生成する場合は,cued/uncuedに関わらずnet vector方向を中心とする抑制勾配が生じる.
cueのnet vectorが0の場合(たとえば,2つのcueが固視点をはさんで真反対の位置に呈示される場合),IORが生じない.したがって,IORの主な原因は,個々のcueではなく,cueによって生成されるnet vectorである.
・Wright and Richard (1996) と同様に,cueの数が多いほどRTは短いものの,IOR量はcueの数によるモジュレーションを受けなかった.
Discussion
・Wright and Richard (1996) における被験者がcue-target contingencyに気づいていなかった可能性がある.そのために,本研究とWright and Richard (1996) で結果に差がなかったのではないか.
(1) cueのnet directionを中心とする抑制勾配が存在.(2) cued locationにおける付加的な局所的抑制はほとんど存在しない.
・Posner and Cohen (1984) とMaylor (1985) は,IORが刺激自体によって生じるのかorientingを誘発する刺激の非対称性によって生じるのかを調べるために,single cueとdouble (opposite) cuesを比較した.しかし,uncued on singleとcued on doubleというように,異なるタイプのcueを比較していた.本研究では,net vectorが0の場合には同じcueに対してcued RTとuncued RTを比較することが可能であったが,IORは認められなかった.このことから,Maylor (1985) の結果パターン(cued on doubleのRTはcued on singleよりもuncued on singleのRTに近い)およびIORがperipheral stimulationではなくexogenous orientingにより密接に関連するという解釈を支持.
・Tipperら (e.g., Tipper, Howard, & Houghton, 1998) による,「行動のnet directionは神経行動システムのポピュレーションコーディングが決定する」という考えを援用すると,『overt/covert orientingを媒介するシステムのポピュレーションコーディングを介してcueの重心にorienting responseがプログラムされる』と考えられる.ターゲット方位が先行するorienting responseの方位と一致する程度に応じて,ターゲットへのRTが遅延される.
<コメント>
非常に面白かった.ただ,multiple cues試行で,cueのnet vectorとターゲット位置のなす角が45, 90°の場合にはIORが生じているような気がしないでもない.net vectorが0でない限り,net vectorとターゲットの角度が同じでもcued/uncuedでcueの配置が異なるからもうちょっとよく考えてみよう.配置を挙げて考えてみるべか.著者たちも記述を気をつけているように,net vectorが0でない場合は,古典的なIOR(cued RTとuncued RTの差)は有意ではない.あくまでnet vectorを中心とするgradient of inhibitionと記している.