• Yi, D-J., Kim, M-S., & Chun, M. M. (2003). Inhibition of return to occluded objects. Perception & Psychophysics, 65, 1222-1230.

・object-based IORはoccluderの背後に隠れて見えないオブジェクトについても観察されるのか?
 → (1) occluderから再出現したオブジェクトに対してIORが生じるか? (2) occluderの背後に消失したオブジェクトに対してIORが生じるか?
・Tipper et al. (1994) では,occluded objectに対するIORについて否定的証拠.大きなstatic boxが小さなmoving boxを遮蔽するstatic-near条件と大きなmoving boxが小さなstatic boxを遮蔽するmoving-near条件.environmental-bsed IORは両条件で生じたが,object-based IORはmoving-near条件でしか生じなかったため,「object-based IORを生じるためにはオブジェクトが視界に入っていなければならない」と結論.
Tipper et al. (1994) では,occluding objectに注意が向けられたために,occluded objectに抑制的タグがつけられなかった可能性がある.static occluding boxもmoving boxと同程度に顕著であった上に,タスクに関連していた.
→ (1) occluderの顕著性を下げ,(2) occluderをタスク無関連にし,(3) accretion/deletionアニメーションで隠れて再出現という知覚を促進,(4) Tipper et al. (1994) よりもフレーム数を多くして運動を滑らかにすることで,抑制的タグがoccluded objectにつけられる可能性を調べる.
Experiment 1cueが与えられた時点で遮蔽されているオブジェクトに対してIORが生じるか?
4象限のうち,対角の2象限がoccluder(cue-probe位置からoccluderのエッジまで4.3°).見えている状態からoccluder背後に隠れ,そこでcueが与えられ,occluderから再出現後にprobe呈示.cue-to-probe SOAは640 ms固定なので,1/3の試行でのみプローブが4ヶ所のうちのいずれかに出現(残りはキャッチ試行).cue (cued/uncued)×probe type (location/object) の2要因計画.
environment-based IORとobject-based IORがともに生起.
・object条件の方がlocation条件よりもRTが長く,これはboxによるマスキングかもしれない.
Experiment 2遮蔽されている間にプローブを呈示してExp 1を拡張.
4象限のうち,対角の2象限がoccluder.後のoccluderの上からboxが回転運動し始め,occluderではないところでcueが呈示され,occluderに遮蔽されたところでprobe呈示.cue (cued/uncued)×probe type (location/object) の2要因計画.
environment-based IORとobject-based IORがともに生起.
・object条件とlocation条件でRTに有意差なし.
Experiment 3cueとprobe時の両方で遮蔽されているオブジェクトに対してIORが生じるか?
8等分し,X字状(そのうちの4領域)のoccluder(cue-probe位置からoccluderのエッジまで1.9°).周辺手がかりとプローブはオブジェクトが遮蔽されている間に呈示.
environment-based IORとobject-based IORがともに生起.
・両条件でプローブはempty locationに呈示されたにも関わらず,object条件の方がlocation条件よりもRTが長かった.
 → (1) attentional momentum (Pratt, Spalek, & Bradshaw, 1999) の可能性はExp 2で同様の結果が生じないので却下,(2) occluded representationへのアクセスに時間を要する可能性もExp 2で同様の結果が生じないので却下,(3) motion masking (Yantis & Nakama, 1998) では,「motion maskingは知覚レベルで生起するのでExp 2のような4.3°の遮蔽では生じず,object-based IORは認知レベルで生起するため4.3°のギャップでも残存した」という仮定が必要.
General Discussion
※cue呈示時 (Exp 1),probe呈示時 (Exp 2),cueとprobeの呈示時 (Exp 3) に遮蔽されていたオブジェクトに対する反応が遅延.
 →抑制的タグが遮蔽による時空間的不連続性に耐えることを示すことで,本研究はobject-based IORの生態学的妥当性を補完.
・Haimson and Behrmann (2001) の解釈のように,occluded objectからoccluding objectへの注意拡散かもしれないし,occluding objectからoccluded objectへの注意アクセスかもしれない.
・occluded objectに対するIORを観察しなかったTipper et al. (1994) とは決して矛盾しない.例えば空港で人混みの中から友人を探す場合,Tipper et al. (1994) はoccluderも「他の人」でターゲット候補となるような状況であり,本研究はoccluderがタスクに無関連で注意をめぐってほとんど競合しない「壁」であるような状況である.
<コメント>
fixationに注意を戻すcentral cueが呈示されるのは,必ずcue呈示位置とprobe呈示位置のちょうど間にboxが来た場合であり,fixationを中心にcueとprobeの極角は90°であるため,environment-based IORもobject-based IORもattentional momentumで説明できてしまう.というわけで,cueとprobeが正反対の位置(極角180°)に呈示され,central cue呈示時のboxとprobeの極角が90°よりもかなり小さい状況でやってもらいたい.


  • Nagai, M., & Saiki, J. (2005). Illusory motion and representational momentum. Perception & Psychophysics, 67, 855-866.

・forward displacementは,眼球運動や心的計算による過去の軌道のextrapolationによるとされる.
・ターゲットの運動は正確に知覚されたと暗黙に仮定されている.たとえば,Hubbard and Bharucha (1988) では水平運動によってforward displacementだけではなく下方へのvertical displacementが認められ,「重力効果は,運動の知覚に顕れるのではなく,forward displacementの基盤メカニズム内で生じている」と仮定している.しかし,実は「運動の知覚自体が間違っている」可能性もある.
illusory motionを用いて,forward displacementがperceived motionとveridical motionのいずれに依拠しているのかを調べる.
Experiment 1A-1B
ターゲットは斜めに運動,context(ターゲットの上下にドットが一つずつ)が水平運動(contextによってターゲットは実際よりも垂直方向に運動しているように知覚される).最終位置判断or運動方向判断.眼球運動については教示なし(Exp 2も).
・運動方向の判断はcontextの影響を受ける.
forward displacementの方向ならびに大きさは,contextの影響を受けない(細かいところのinteractionは出てるけど,直接比較では差なし).
・テストフェイズの運動方向が左下だけだったのがExp 1A,左下と右上を混ぜたのがExp 1B,どちらも結果は同傾向.
Experiment 2
ターゲットは右に水平運動.context(ランダムドット)がstationary/same/opposite(contextが同方向に動くと遅く,反対方向に動くと速く知覚される).最終位置判断or運動速度判断.
・運動速度の判断はcontextの影響を受ける.
forward displacement(に加えvertical displacement)はcontextの影響を受けない(細かいところのinteractionは出てるけど,contextの主効果はn.s.).
・contextが運動しているほど物理速度の影響が小さいのは,attentionで説明できる (Hayes & Freyd, 2002; Raymond, 2000).
General Discussion
・Faust (1990) とSheth and Shimojo (2000) は,位置判断に対するillusory motionの効果を示したが,手続きなどの違いからこれがforward displacementへの影響なのかは不明.
forward displacementに影響すると言われている要因(物理法則,オブジェクト運動に関する知識)は,知覚システムに影響するのではなく,extrapolationメカニズムに影響する.
知覚プロセスはillusory motionを生じるが,forward displacementの基盤メカニズムはveridical motionを利用している.
・forward displacement (off-line) とon-lineのmanual pointing(後期フェイズ,修正されたもの)(Smeets & Brenner, 1995) は,veridical motionを利用している点では同じだが,前者はveridical position情報を用いることができないのに対して,manual pointingはveridical position表象にアクセスできる(実際に修正してヒッティングできるから).
forward displacementの原因は,ターゲットのオフセットタイミングの知覚遅延ではないか?Fröhlich effectやflash-lagについても同様のことが言われている.Hayes and Freyd (2002) の注意を向けていないオブジェクトほどforward displacementが大きい,Munger and Owens (2004) の近傍にフラッシュが呈示されるほどforward displacementが大きいという知見も,注意が逸らされてオフセットタイミングが遅れることで説明できる.
<コメント>
・なんでオフセットのタイミングの知覚が遅れるの?それって当たり前に言われていることなのか?
・あと,すでに言われているような気がするが,眼球運動を統制していないことから(いや,固視を求めていたとしても),眼球運動に対するフィードバック信号(あるいはcovert attention shiftに対するフィードバック信号)がforward displacementの原因な気がする.