• Eltiti, S., Wallace, D., & Fox, E. (2005). Selective target processing: Perceptual load or distractor salience? Perception & Psychophysics, 67, 876-885.

Lavie and Tsal (1994) に始まる知覚負荷理論では,低知覚負荷では後期選択,高知覚負荷では初期選択になるとされている.しかも「低知覚負荷だと,強制的に注意資源がディストラクタにspill overして干渉が生じる」とされている.
・Paquet and Craig (1997),Paquet (2001),Johnson et al. (2002) では,ターゲット位置にprecueを呈示することで,low-loadディスプレイでも干渉が消失することが示された.これは “strong perceptual load” 説への反証である.
→上述の研究ではcueを呈示しており,Lavie (1995) のオリジナルに近い状況とはほど遠い.そこで,Lavie (1995) のオリジナルの研究により類似した条件下で,low-loadディスプレイにおいて選択的処理(干渉の消失)が認められるかをテスト.そのためにディストラクタをonset/offsetとして呈示した(背景にある概念としてはcontingent involuntary orienting,ターゲットonset/offsetと組み合わせてやる).
※また,実は「知覚負荷」ではなく「ディストラクタ顕著性」ではないか?
Experiment 1
ターゲットは常にonsetとして呈示.ディストラクタのonset/offsetを操作(offset時には8の字プレースホルダーからremovalで呈示).ターゲットは “s” or “c”,中立刺激はlow-loadディスプレイでは “*”,high-loadディスプレイでは “v, w, z, r, n”.ディストラクタは,incompatible条件ではターゲットではない方の刺激(ターゲット “s” に対して “c”,あるいはその逆),neutral条件では “p” あるいは “j”.low-load/high-loadはブロック間,ディストラクタ呈示 (onset/offset) はブロック内(?).
・low-loadディスプレイのonsetディストラクタでのみ干渉が生じた.
low-loadでは資源が残っているはずだが,offsetディストラクタでは干渉が消失したことから,“saliency” 説に一致.
Experiment 2
Exp 1の追試に加えて,ターゲット顕著性の効果をテストするため,ターゲットを中立アイテムよりわずかに大きくした(大きさシングルトン).ターゲットは常にonsetとして呈示.ディストラクタのonset/offsetはbetween-Ss要因.load (high/low) はおそらくブロック間.
・low-loadディスプレイとhigh-loadディスプレイともに,onsetディストラクタによる干渉が生じた.
資源が残っていないとされるはずのhigh-loadディスプレイでもonsetディストラクタによる干渉が生じたことから,“saliency” 説に一致.
Experiment 3
注意による構え (attentional set) の効果を調べるため,ターゲットとディストラクタをそれぞれonset/offsetとして呈示.low-loadディスプレイしかない.ターゲット呈示 (onset/offset) はbetween-Ss要因,ディストラクタ呈示 (onset/offset) はwithin-Ss要因(ブロック間で操作).知覚負荷仮説ならlow-loadなのでどの条件の組み合わせでも干渉が生じるはず,対してディストラクタ顕著性なら顕著性は構えに規定されるのでターゲットとディストラクタのonset/offsetが一致する場合にのみ干渉が生じるはず.中立アイテムは “*” ではなく “≡”.
・onsetターゲット-onsetディストラクタ,offsetターゲット-onsetディストラクタ,offsetターゲット-offsetディストラクタで干渉が生じた.
→Exp 1-2と同様に,low-loadディスプレイであるにも関わらずonsetターゲット-offsetディストラクタで干渉が生じないことから,“saliency” 説に一致.offsetターゲット-onsetディストラクタでの干渉は “saliency” 説に一致しないようにも思えるが,onsetディストラクタの顕著性が非常に高かったために構えでは制御できなかったのであろう.
General Discussion
・ターゲット位置へのprecueを伴わずに,Lavie (1995) のオリジナルに近い状況で,low-loadディスプレイでの選択的処理(干渉の消失)を示した.
通常見られる知覚負荷効果は,実は資源が枯渇しているからではなく,high-loadディスプレイのディストラクタ顕著性が低いために注意を捕捉しないからではないか?
<コメント>
3点.
・知覚負荷を叩く論拠が「low-loadで干渉が消失する」ことに依存しているが,干渉が消失するのは実験内のさまざまな条件の中でもっともRTが短い.したがって,パフォーマンスの天井(すなわちRTの床)によるせいも考えられると思う(ただ,干渉があるならRTが増加してもよいはずか…).
・Exp 2において,high-loadといってもターゲットをシングルトンにした時点でlow-loadに近い状況を作り出しているせいで干渉が生じる可能性がある(でもRT自体は増加しているのでloadは高いのかもしれない).
・ディストラクタはもとから探索ディスプレイ内のアイテムよりもかなり大きく呈示しているのだから,Exp 1からhigh-loadでも干渉があってもよさそうなものである(あの程度では顕著性が足りないのかもしれないが…).たとえば探索ディスプレイに比してディストラクタのコントラストを非常に高くしてやれば,Exp 2みたいな反則すれすれの操作をしなくてもhigh-loadで干渉が生じるかもしれん.


  • Giesbrecht, B., & Kingstone, A. (2004). Right hemisphere involvement in the attentional blink: Evidence from a split-brain patient. Brain & Cognition, 55, 303-306.

・AB中に観察される容量制約は主にfrontal/parietalを含む右に側性化した脳システムに媒介されていることを示す証拠がある (Husain, Shapiro, Martin, & Kennard, 1997; Morois, Chun, & Gore, 2000).
これらのデータをもっとも極端に解釈すれば,右半球がAB中の容量制約の所在であるならば,両ターゲットがともに右半球に対して呈示された場合にのみABが生じるはずである.分離脳患者でこれを検証する.
Experiment
固視点を囲む一辺4°の仮想正方形の頂点上にプレースホルダー(ちょうどDuncan et al. (1994) のtwo-targetパラダイムを45°回転させた感じ).SOA (114, 298, 696 ms)×T1呈示視野 (LVF, RVF)×T2呈示視野 (LVF, RVF).分離脳患者1名 (JW) と健常コントロール6名.
分離脳患者では,LVFに呈示されたT1パフォーマンスは低く,T1呈示視野に関わらずT2パフォーマンスはLVFで低く,ABはT2がLVFに呈示された場合の方が大きい.
・健常コントロールでは,ABが生じるが,呈示視野の効果はない.
Discussion
・極端な解釈には一致しなかったものの,右半球が容量制約的視覚処理において(唯一ではないが)重要な役割を果たしているという考えに一致.
・T1がLVFに呈示されようとRVFに呈示されようと右半球において同程度のABが生じたことについては,(1) 分離脳では,左半球が右半球の容量制約処理を占有するには皮質下連絡で十分である,(2) T1がRVFに呈示されると,空間的注意をRVFにシフトすることによって右半球の資源が占有される,の2つの可能性がある.
<コメント>
分離脳患者のデータに関して,おそらく3要因の交互作用は有意ではなかったのだろうが,生データを見ると,一応T1とT2が同一半球に対して呈示された場合の方がABが深い傾向がある.したがって,半球内の干渉の方が大きいというのもあるだろう.


  • Giesbrecht, B., Bischof, W. F., & Kingstone, A. (2004). Seeing the light: Adapting luminance reveals low-level visual processes in the attentional blink. Brain & Cognition, 55, 307-309.

明所視 (photopic) 条件と暗所視 (scotopic) 条件でスタンダードなRSVPによるAB課題.
明所視でのみABが認められ,暗所視ではABが消失(これはいいすぎかもしれんが,大幅に減弱).
→AB中で注意されていない情報に対するマスキングは,低次の視覚プロセスに媒介されている.
<コメント>
Giesbrecht自身の記述からすると,本当は分かってるのだろうけど,非常に誤解を招く論文である.別に決してABが低次視覚処理に媒介されているわけではない.
Giesbrecht et al. (2003) では,T2マスクをmasking by object substitutionにした場合にABが認められなかったことから,ABを生じるには低次マスキングが必要と結論づけている.背景としては,MMのようなlow-level maskingは暗所視で消失することから初期視覚処理が関与しており (Bischof & Di Lollo, 1995),OSM暗所視でも明所視でも同程度に頑健であることから後期視覚処理が関与している (Di Lollo et al., 2000) とされている.このGiesbrecht et al. (2003) を支持するために苦し紛れにやった実験としか思えない.
 そもそもABが何なのかという研究者間の定義によるであろうが,ABにcriticalなのは(Chun & Potter (1995) 流の2-stageモデルで言えば)WM consolidation (Stage 2) のところのボトルネックである.もちろんここでT2が引っかかってStage 1 (iconic stage) でとどまっている間に,後続アイテムによるマスキングはT2パフォーマンスが低下する(結果として目に見えるABが増加する)確率を格段に増加させる.「ABを生じさせるためにはlow-level maskingが必要で,high-level masking (OSM) ではダメ」というGiesbrecht et al. (2003) のシナリオが正しいとすれば,脳内処理の機能的ヒエラルキーとしてlow-level masking locus→Stage 2→high-level masking locusとならなくてはいかんが,まずStage 2が終わった時点でconsolidationは完了しているのだからそれ以降にOSMがかかるわけがない.Stage 2に進めずにStage 1で待っている間にlow-levelであれhigh-levelであれマスキングがかかるのだから,T2マスキングがOSMであってもABは生じるはずである.実際にDell’Acqua, Pascali, Jolicœur, and Sessa (2003) はOSMによるT2マスキングでABを観察している.Giesbrecht et al. (2003) でT2マスキングがOSMでABが認められないのは,(変にパフォーマンストラッキングしてるせいで)きっとパフォーマンスが床についててそれ以上のABが生じ得ないからだと思う.もちろんパフォーマンスの最低地点でもチャンスを上回っているが,必ずしもチャンスレベルが床とは思わない,システム上の床があると思う.